「………何、やってんだ?」
自室に戻ったウェイバーが見たものは、聖杯戦争もかくやたる惨状だった。
部屋一面に転がった空き瓶。テーブルに無遠慮に広げられたつまみ類。散乱する外装紙。

「おお。坊主もどうだ。駆け付け一杯」
「おかえりー、ウェイバーくん」
陽気に答える、一組の男女。

少年は嘆息した。
「──あのな。ボクの部屋で酒盛りとかするなよな。それに………あーーーッ!?」
淡々と説教を始めたウェイバーは、とんでもないものを視界の隅に捉え、思わず絶叫した。
「オマエ!ナニで酒飲んでんだ!?」
詰め寄った先は彼の名目上のはとこ、
手に持った容器を口につけながら、ん?と彼女が反応する。
「ああ、ゴメンゴメン。コップなかったから、ちょっと拝借しました」
「ビーカーをコップ代わりにするなあぁぁ!」
へら、と悪びれず笑うに大絶叫をかます。
「堅い事を言うでない。酒器にしては些か風流に欠けるが、豪快で良いではないか」
「アルコールランプでスルメを焼くなッ!!」
がっはっは、と笑い飛ばすサーヴァントの手元から、炙り烏賊の香ばしい匂いが漂う。
「とりあえず、ウェイバーくんも座ったら?」
「あーーッ!ボクの魔導書!?」
幼少の砌より苦楽を共にしたハードカバーは、哀れ鍋の下敷きになっている。

「オマエ等ッ!!ヒトの研究道具を何だと思ってンだ!?」
びしい!と二人を指差して抗議するウェイバー。愛用の品々を蔑にされて、ちょっと涙目。
「ちゃんと綺麗に洗って返すから」
「用途を限定せぬ道具の方が、遥かに価値は高いぞ?」
「うるさい!黙れ馬鹿共!!」
反省の欠片もない態度に、条件反射で怒鳴り返す。

しん、と静寂が部屋を包んだ。
剣幕に押されたのか、きょとんとウェイバーを見つめる二人を、少年は半目で見降ろし、やがて。
「──フン」
鍋敷きと化した本をひったくると、部屋の隅にすとんと腰を降ろした。

「───飲むのは勝手だけど、ボクの邪魔するなよ」
「お腹空いてるとイライラするよ?はい、チー鱈」
「…って言ってる傍から邪魔すんな馬鹿女!!」
人が譲歩してやってんのが分かんないのか!噛み付く勢いのウェイバー。
背中越しに差し出された白くて細長い物体の貧相具合が、苛立ちを倍増させる。
「余の妃に向かって馬鹿女とは無礼な」
「だったら手綱握っとけよ!!」
のんびりと反論するライダーに怒鳴りつける。
と、巨漢を指差した少年の手を、横合いから白い手が覆った。
「ウェイバーくん指ほっそいねー。あははは」
「っな……」
「しかも長いよ。羨ましいなー」
言うまでもなく、である。
ウェイバーの右手を両手で包み込み、一本一本探念に指を確かめる。
「は・な・せ!オマエ酔ってるだろ!?」
「んー?酔ってない」
「酔っ払いは皆そう言うんだよ馬鹿!!」
抗議するウェイバーは、耳まで赤い。
振り解こうとするが、曲がりなりにも相手は女性。無理矢理引き剥がすのは抵抗があるらしい。
ぶんぶん、と上下する右手とともに、彼女の両手も上下する。
ふと顔を上げると、じいと見つめると目が合った。
「……だから、は、離せってば…」
たじろぐウェイバー。にぱー。と、が無邪気な笑顔を見せた。
「?何…」
眉を顰めたウェイバーの頬に、ひたり。と細い指が触れた。
「えへへー」
「は?え、何…」

そして。

「ウェイバーくんはかわいいなぁー」
「っぎゃーーーーー!?」

抵抗する間もなく、ウェイバーの華奢な身体がの腕に収まった。
「はっ離せー!この酔っ払い!」
「酔ってないようー」
「ふざけんな!滅茶苦茶酒臭いじゃねーかッ!!」

四肢をあらん限りに動かしてみるが、包み込んだ温もりはびくともしない。
体格の差を実感させられて、余計ムキになる。
「離せー!離れろ馬鹿ー!」
「はっはっは。据え膳食わぬは男の恥だぞ、坊主」
「オマエも見てないで止めろよ!!」


結局。
征服王に差し出された液体を、半ばヤケクソで飲み干したウェイバーの記憶が途切れるまで、この騒動は続いたという。
本日、ウェイバー・ベルベットの得た教訓。
の酒には付き合うな。







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080905