世良恭平は悩んでいた。
「あ、世良くんお疲れさ…わっ」
「さーん…!」
着替えを済ませた世良を見かけたが声をかけると、彼はそのままの胸元へとダイブした。
「何かあった?」
そっと髪を撫でてやると、世良は安心した猫のようにの胸に顔を埋めてうう、と小さく呻いた。
「……ちょっと…」
「また堺さんに叱られた?」
問うと、そのままコクリと世良は頷いた。
「俺…ちょっと自信なくしそうっス…」
情けない声を上げる22歳。
よしよし、と、その頭を撫でながらが苦笑する。
「堺さん、世良くんのことを思って言ってるんだと思うよ?」
だから大丈夫、と言えば、わかってます。と小さく返事があった。
「自分が未熟な所為だってわかってるっスけど…でも…」
が、ポンポンと世良の後頭部を撫でる。
「堺さんが怖い?」
「─……怖いっス」
ぼそり、と返ってきた言葉に、がクスクスと笑う。
「よしよし、怖かったね」
「うう、さーん…」
背中をさすりながら頭を撫でてやると、世良はぎゅっとに抱きついた。
「はあ…さんまじフクフク…」
「…それは太ってると言いたいのかな?」
軽くこめかみに拳を当てると、違うっス!と世良が必死に言い訳した。
「あ、また世良がセクハラしてる」
「おーい世良ー、お前そんなことしてるとまた堺さんにどやされっぞー」
通りがかった丹波と石神が声をかける。
「ちゃんも。こういうのは毅然と拒否しなきゃ駄目だろ」
「そうそう。毅然と裏拳を」
呆れ顔で世良を引き剥がしながら言う丹波に、頷いて物騒な言葉を続ける石神。
気にしてませんよー、とが笑う。
「そこは気にしようよー」
「ちゃん…あんま無防備だとお兄さん心配しちゃうぜ?」
世良の首根っこを摘んだ丹波が嘆息する。
ありがとうございます、とが微笑む。
「でも、本当に大丈夫ですよ」
そう言って、丹波に捕まったままの世良の頭を軽く撫でる。
「世良くん、変なことしないもんね?」
「ウス!」
目を合わせて笑えば、威勢の良い返事が帰ってくる。
いや十分変なことされてるから!とベテラン二人から同時にツッコミが入った。
「という訳で、セクハラ犯の世良くん」
「堺さんが呼んでたぜー?」
丹波と石神が、からかうように世良に通告する。
げ、と世良の口から声が漏れた。
「なんか、FW陣のミーティングするって」
若干怯えた顔の世良に、石神が普段の軽い口調に戻って付け足す。
世良がほっと胸をなで下ろした。
「ま、そういうこったから」
「さっさと行けよー」
丹波が世良を下ろし、その後ろから石神が軽く蹴りを見舞う。
「ウ…ウッス!」
ぺこりと頭を下げて、世良が歩き出す。
「世良くん」
通り過ぎざま、が声をかける。
世良が顔を上げると、優しい笑顔がそこにあって。
「いってらっしゃい」
ポン、と頭を軽く撫でられ。
「は…ハイっス!」
元気よく返事をすると、一変して笑顔になった世良が、軽い足取りで去って行く。
その後ろ姿を見送りながら、
「ちゃん、世良甘やかし過ぎだろ」
苦笑交じりに丹波が言う。
「俺もそう思うなー?」
石神がの目を覗き込む。
「甘やかしてもいいことないぜ?」
そう言う丹波に、は軽く笑って。
「世良くんは、褒めて伸びるタイプかなって」
「…褒めるのとセクハラは違うからな?」
まるで気にしていない風のに、丹波の冷静なツッコミが入った。
「世良ァ!何帰り支度してんだお前は!さっさとしろオラ!」
「ス、スンマセンー!!」
向こうの部屋から、堺の怒鳴り声と、世良の元気のいい声が響いた。
「─…まあ」
その声を聞きながら、が目を細める。
「悩める青少年の手助けをするのは、大人の役目じゃないですか?」
そう言ってベテラン二人に笑いかけると、アイツも一応大人の筈なんだけどね。と苦笑交じりの返事が返ってきた。
ETU20番、世良恭平。
若い彼の悩みは尽きないが、彼の精神の安定は、彼女の包容力によって日々守られている──と言っても、過言ではない。
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世良に懐かれている様が書きたかった。
120310