ガンマ団特戦部隊隊員が一人、の朝は早い。
「うむ」
東の空を見やれば、太陽が昇ってきたところである。

「さて─」
先ずは日課。
枝を器用に蹴りながら、地面には一切触れず木々を渡り、森を一周する。
「2分42秒。昨日より3秒遅い。─昨晩の夕餉を少々、頂きすぎたか」
腕時計でタイムを計り、一人ごちる。
昨夜はパプワたちの誘いを受け、シンタローの手料理を馳走になったのだった。
こういうことは珍しくはない。
彼らの動向を探るという本来の目的からしても、あの家に招かれるのは、にとって好都合な状況である。
だが。
ゆるゆると昇る太陽を眺め、苦笑(傍から見れば無表情にしか見えない)を零す。
「─緩んでおるな」

樹に足の甲を掛け、逆さまにぶら下がる。
1、2と数えながら、腹筋力で起き上がる。
200を数えたところで、そのままだらりと樹からぶら下がり、正面に見えるパプワハウスを逆さまに眺める。
丁度、少女がドアから出てきたところだった。

は、家の中を伺うようにもう一度覗き見ると、音を立てずにドアを閉めた。
キョロキョロと周囲を伺い、ほっと一つ息を吐く。
「早いな」
「きゃぁっ!?」
声を掛ければ、飛び上がらんばかりに驚く少女。
はくるり、と樹から飛び降りた。
着地の際に音を立てぬのは忍の嗜みである。
「あ、さん…」
声の主がだと解ると、は若干の落ち着きを取り戻し、おはようございます。と頭を下げた。
「お早う」
挨拶は一日の基本である。
この島の住人は、会うとほぼ必ず挨拶を返してくれる。それがには心地良かった。

「用事か」
少女が大事そうに抱えた包みに目を止め尋ねると、は一瞬ぴくりと肩を揺らし、次いで少し困ったような笑みを零した。

内緒ですよと前置きし、少女はぽつぽつと話し出した。
つい最近まで家の前にあった二つの鉢植え。
がやけに背の高い観葉植物としか認識していなかった(心の目を逸らしていた)アレを、は『二人』と言う。
その彼らに、弁当を届けるのだと言う。
成程シンタローには言いづらかろう。
同時に少女の行動に暖かなものを感じ、は─彼にしては珍しく─少なからず協力しようという気を起こした。

「しばし待て」
森へ歩いていこうとする少女を制し、は寝床から幾つかの物資を風呂敷包みにすると、再び地面へ着地した。
「これを、あやつ─黒装束の男の方へ、渡して欲しい」
受け取ったは、それだけで察したらしく、ハイと直ぐに返事が返ってきた。
トットリと知り合いであることは、この少女にはいつだったかぽつりと話したことがあった。
少女は何を感じたのか、柔らかな笑みでを見ている。
「必ずお届けしますね」
やがて、元気の良い声でそう言うと、は森の中へと進んで行った。


それを姿が視認出来なくなるまで見送ると、はぽつりと呟いた。
「未熟者の弟子の面倒も、多少は見てやらねばなるまい」


──Hey, give him this...






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