…もう二年になる。
なのに俺は、あの日の事を忘れられないでいる。

あの日、あいつの全てが崩れ落ちた。大切な者を奪われ、誇りを傷つけられた。最良の友を死地に追いやった日だ。
戻って来たあいつは、一度も泣かなかった。
だが、それは強さの故ではなかった。寒気がするほど表情の失せた顔を見ていれば、いやでも判った。
泣けなかっただけなのだ。
痛みすら感じられない程に、心を切り裂かれた時。
打ちのめされ、絶望の淵を覗き込んだ時。
涙は容易く涸れる。
俺は、そんな光景を幾度となく見てきた。

終わりだと思った。
砕けた陶器の欠片を繋ぎ合わせた所で、元の形を取り戻す事は叶わない。それと同じだ。一度砕けた心が、元の強さを持つ事は無い。
例外があるとすれば、欠片を土に返して再び焼き上げる様に、新しい心を作り出すしかない。稀にそれを成し遂げる者もいないではないが、あいつにそれだけの想い──欠片を土に返し、再び焼き上げるに足る熱量が残っているとは思えなかった。

だからあの時、俺は自分の耳を疑ったのだ。

「……強くなりたい」

まるで呻き声の様に吐き出されたそれは、声ではなかった。願いですらなかった。
誓いだった。
俺は沈黙していたが、それは言葉を失ったからではなかった。
馬鹿げてやがる。まだ戦うのか?もうおまえの力じゃ…人一人の力じゃどうにもなりはしないってのに。
ヒルダの為か?馬鹿な。あの娘は自分で選んだんだ。ただ一つの願いを叶えるために。 
相棒の為か?それこそ馬鹿げてる。あいつはお前を死なせたくなかったから、ああしたんだ。負い目を感じるような事じゃない。
それとも、あの白鳥人のためか?論外だ。あと五度の勝利と引き換えに、あの娘はお前の魂を奪う。そういう風に出来てるんだからな。
これだけの内容を一度に吐き散らかす事ができなかっただけだ。
どうにか穏当な制止の言葉を思いつきかけた時。
あいつの眼を見てしまった。

それは、異様な輝きだった。
明るい輝きではない。沈んだ、闇の中の灯火を思わせる光。だがその光の奥底に垣間見える熱量は、地の底に蠢く溶岩に等しかった。

ああ。そうか。

不意に判った。

こいつは、止めたんだ。
ただ生きるために生きる事を拒絶したんだ。
心から望む、己のかたちを手に入れる事にしたんだ。
──例えその為に、己の全てを費やしたとしても。







-解説by夢果実-
読んだ人おいてけぼりな、不親切設計の断章。
…という事で、軽ーく解説などつけさせて頂きます。
この「断章」は、スクセの因縁・夢果実のアイドル(聞いてない)、商人?のアイマールさんの独白です。
スクセの物語は水面下でもそもそと作成しているのですが、ブレカナのルールが2ndから3rdへ移行するにあたって、丁度物語中でキリの良い時期だった事もあり、作中時間を2年進めたんです。
で、その「第二部」冒頭、という事で、アイマールさんの語る2年前の「あの日」のスクセ。
この断章はD◎Aが書いたのですが、ごねるD◎Aから強奪してきました。全てはアイマールさんへの愛ゆえです。(迷走中)

アイマールさんと言うのは、気のいい商人のお兄さんなのですが、実は正体がごにょごにょ。
その辺りは、また別の機会に作品で語れたらなーと思っております。
スクセの物語についてはキャラ紹介ページであらすじには触れてますが、詳細もまた作品で語る事が出来たら…と思っております。思うだけ。
何分長編なので、全て文章に書き起こす自信がない。(夢果実は長編が書けない人です)
断片的に小出ししていけたらなーと夢想しておりますので、宜しければお付き合い下さいませ。





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