「──ああ。特に問題はない。…了解した。それでは」
通話が切れたのを確認すると、山崎はハンズフリーフォンのイヤホンを方耳だけ外した。
郊外を走る、シルバーグレーのミニバンの車内。
エンジン音と、ラジオのニュース番組の声が小さく響いている。

「連絡があった。予定通りだ」
前方から目を逸らさずに、山崎は助手席の男に声を掛けた。
「─ありがてえな」
コーカソイドに顕著な色の薄い金髪。シートに預けた体躯は縦横共に巨大だ。
「長く待つのは願い下げだぜ。趣味に合わねぇ」
流暢な日本語に混じる訛りは、意識して耳を傾けねば聞き流す程度に僅かだった。まだ30歳には遠い年齢だが、日本に移ってそれなりに長いと聞いている。
ロシア人と思しきこの男は、ジルコフと名乗った。フルネームは知らないし、興味も無い。
性格は雑だが、自覚はあるのか指示には素直に従い、動き惜しみもしない。
山崎にしてみれば扱い易い相手ではあった。

「今日仕入れて、明日までに捌く。在庫を抱えない方が上手く運ぶのは、この仕事でも同じだ」
「店員かよ」
半ば呆れ、半ば茶化すようなジルコフの呟きに、山崎はそんなものだ、と熱の無い口調で返す。
ジルコフは窮屈そうに小さく肩を竦めた。ミニバンと言っても所詮日本車、しかも助手席である。彼の巨体を収納するには些か狭い。
「監視は?」
山崎は意に介さず、話を本題に引き戻す。既に目的地の周辺へ差し掛かっていた。
「真ッ当な奴はねえよ」
車外を見渡す素振りすら見せず、ジルコフが答える。
「“そうでない”奴は?」
山崎の問いに、ジルコフは軽く鼻をひくつかせ、匂いを嗅ぐ仕草をした。
「─ねえと思う。今のところは」
「思う、では困るのだがね」
慎重派の山崎が一言添える。
ジルコフは、軽く右手を振った。
「心配無ぇよ。手際良くやりゃ、五分で済む。楽な仕事さ」
「…だといいのだがな」
山崎の言葉と同時に、車は静かに停車した。
運転席と助手席のドアが各々開き、対照的な外見の男二人が、目の前の高層マンションへと歩いて行く。

冷ややかに冴えた月光。二つの影が地面に長く伸びる。
一つは針金細工の如き細い影。
いま一つは──人体の特徴を留めぬ、異形のそれだった。








 


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