「…ちょっと。──今、なんて……?」
コートの脇を通りがかった有里が、足を止めて硬直した顔を向けた。





事情聴取という名のあれこれ





「ゲッ、有里さん!」
「い、いやっ何でも…」
「ちょーっと待ちなさい」
歓談していた若手たちが顔を見るなり逃げ出そうとするが、襟首を掴んで有里が引き止める。
「お…俺は知らないっス!丹さんに聞いただけで!!」
捕まった世良が必死に言い訳をする。
お前らズリーぞ!と逃げた選手たちの方を指させば、顔の前で両手を合わせてゴメンのポーズをしきりにしている。
「ゴメンで済むかァー!」
世良の叫び声が、コートに木霊した。

「あれ、何やってんの有里に世良」
ペットボトル片手に声をかけたのは、件の丹波その人であった。
「何?世良がなんかやらかしたの?お仕置きも程々にしろよー有里ー」
ニシシ、と笑う丹波。
有里の目がギラリと光る。
あっさりと世良から手を離す有里。ポトリ、と地面に落とされる世良。
「丹波さん……?」
「えっ何だよ有里、怖い顔しちゃって」
有里の形相に若干怯んだ丹波が、口の端を引き攣らせつつ問う。
有里はスウ、と一つ呼吸をすると、

「──石神さんがさんにセクハラしたって、どういうことですか」

─遠巻きに様子を見ていた他の選手曰く。
その時の有里の目は、完全に据わっていた、という。



「だから、俺も現場を見たわけじゃねえんだって」
詰め寄られた丹波が、冷や汗を垂らしつつ言い訳する。
先ず回れ右をして逃亡を試みた結果、有里にがっしとジャージの裾を掴まれているこの状況である。
原因となった若手らは、既にコートへと戻っていて。
─アイツら、後で泣かす。
心の中で毒づいてみるものの、有里の厳しい視線から逃れられる訳ではない。
「じゃあ何で、こんな話題になってるんですか」
「……それは…まあ、ホラ。な?」
「誤魔化さない!」
目を逸らす丹波を、有里が一喝する。
ハイスミマセン、と丹波が即座に頭を下げた。
「──で?」
早く吐け、と尋問中の刑事さながらの迫力で有里が迫る。
あー、と丹波は頭を掻いた。

─ゴメンな、ちゃん。

心の中で、今ここにはいない相手に謝る。

─丹波さん、まだ命が惜しいんだ。