「わぁ、ぴったり。ありがとうございます、シンタローさん」
弾んだ声を上げると、はくるりとその場で一回転してみせた。
「急ごしらえだけどな。着てた服が乾くまでは、それで我慢してくれよ」
濡れたの服を洗濯しながら、シンタローが答える。
彼女の白い肌にも、南国の素材で拵えられた衣装はよく似合っていた。
「はっはっは。中々似合っているゾ」
満足げなを見て、パプワが扇子を広げる。
「本当?あっこれ、パプワくんのと同じ素材だね」
「はっはっは。おそろい、おそろい」
すっかり打ち解けた様子の二人に、シンタローは思わず笑みを零した。
彼女の警戒も、すっかり解けてしまったようだ。
だが、そんなシンタローの温かい思いも、彼女の一言によって凍りつく事となる。
「器用なんですね、シンタローさんって」
──びしぃっ。
「…好きで器用になった訳じゃ…」
背中を凍りつかせたまま、涙を流して洗濯を続けるシンタロー。
彼の背後にブリザードが見えたのは気のせいだろうか、とは思った。
「──と、ところでちゃん…」
ふと、洗濯の手を止めたシンタローが、を振り返った。
突然の呼びかけに、首を傾げる。
「キミ、どこから来たの…?」
「エ…」
思わず固まったの肩を、泡だらけの両手ががっしりと掴む。
「わ」
「よ、良かったらおにーさんに、どこからやってきたのか教えてくれないかなぁ…?」
「え、えーと…」
涙と鼻血をだばだばと流しながら迫るシンタロー。─はっきり言って、少し怖い。
思わず後退したくなっただが、しっかりと肩を掴まれそれすらもままならない。
──がすッツ。
と、横合いから投げられた石が、的確にシンタローのこめかみを強打した。
「痛ッてーーー!」
「お前、まーだ自分の立場がわかっとらんようだな…」
──がぶり。
「うわはぁー!ごめんなさァい!日本に帰りたいなんて、思ってませんーーーッ」
チャッピーに噛み付かれた格好のまま、部屋中を駆け回るシンタロー。
大丈夫だったか?と声を掛けるパプワに、は済まなさそうに曖昧な笑みを返した。
「…ごめんなさい…。実は、私…」
「…え゛。覚えて、ない…?」
「──はい……すみません」
ありのままを話すと、まず反応を返したのはシンタローだった。
「てことは…俺、まだ帰れない…?」
「お前、まだ自分の立場が…」
「滅相もございませんッ!!」
肩を落とすシンタローをぎろり、と睨みつけるパプワ。
慌てて頭を地に擦り付ける彼を横目に、パプワは眉を八の字に曲げたに近寄った。
「お前、どこから来たのかわからないなら、行くところがなくて困るだろう」
「え…」
「記憶が戻るまで、ココにいればいい」
さも当然、と言わんばかりに扇子を広げたパプワを見て、は戸惑った。
「え…でも」
「僕は構わんぞ。友達を助けるのは当然のことだ」
「……パプワくん」
パプワの言葉に、の表情が少し和らいだ。
が、視線の先、少年の背後で再び洗濯物と格闘する男に目が止まり、直ぐに瞳が不安に揺れる。
「でも…シンタローさんは」
遠慮がちに吐き出された疑問。
呼ばれて振り返ったシンタローが何ごとか言う間も無く、パプワがの言葉を遮った。
「ここは僕の家だ。家主の僕が良いと言うのだから、問題はないゾ」
は、目をぱちくりと瞬かせると…
「─……うん。ありがとう、パプワくん」
ふんわりと、本当に嬉しそうに笑った。
「──と、言う訳だ。今日からの分も飯を用意しろヨ、シンタロー」
「へーい」
どーせ俺の意見なんて、とぶつぶつ呟くシンタロー。
しかし、
「──あ、そうだ。」
「はい?」
「夕飯までまだ時間あるから、暇ならパプワ達と遊んでろよ」
洗濯の手を休める事なく発せられた言葉は、彼が既にの存在を受け容れている事を示していて。
─やっぱり、優しい人だ。
「…はい。ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をすると、はシンタローの背中に微笑んだ。
こうして、パプワハウスに新たな仲間が加わった。
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