「んー、いい天気」
ぱん、とシーツを広げると、は快晴の空を仰いだ。

シンタローのイトコのグンマやそのお目付け役のドクター高松が島にやってきたり、タンノを巡る男とイカ男の熱い戦いがあったり、パプワ島恒例の大運動会が開催されたり、エンドウくんや白熊のフっくんとの出会いと別れがあったり。
いつもと変わらず色々なことがあって、そして、いつもと変わらず平和な日々が過ぎていた。

「シーツも真っ白になったし」
鼻歌混じりに自画自賛する
ロープにシーツを掛けていると、ある違和感が彼女を襲った。
「───あれ」
さきほどまで聞こえていたパプワの元気な声が、聞こえてこない。
が家の方を振り返ったのと、ほぼ同時だった。

「パプワっ!」

家の外まで響く、尋常でない叫び声。
「シンタローさん、パプワくん!?」
残りの洗濯物を放り投げて、は家の中へと駆け込んだ。





「俺のせいか!?」
ミミズク医師の説明を聞くと、シンタローは愕然と声を上げた。
パプワは布団に寝かされ、熱にうなされている。
その傍で、チャッピーが心配そうに目に涙を溜めている。
の初めて見る光景だった。
「よそ者のおまえが汚れた地からウイルスを持って来たんじゃ!」
語気を少し荒げて、ミミズク医師は言った。

─パプワ島はこの世界に残る最後の聖域。
─汚れた土地の者が来るところではない、と。

─聖域。
ヨッパライダーも同じことを言っていた。
それとパプワの熱と、肩を落とすシンタローと。どんな関係があるというのか。
(─どうして)
には解らなかった。
しかし。
罵倒とも呼べるそれらの言葉に、シンタローは抗うことなく、静かに。
「─…治す方法は!」






、パプワをよろしく頼む」
パプワハウスの入り口。
髪を綺麗に結い直したシンタローが、に向かって言った。
「─シンタローさん」
「そんな顔すんなって」
わしわしと、の髪を掻き混ぜるシンタロー。
俯いたの表情は、彼からは視えない。

(─よそ者って言うなら…)
は、胸元の石を握り締めた。
「─シンタローさん」
「ん?」
顔を上げて。
首を傾げたシンタローに、は。
「─わたしも行く」

ふ、っと。
シンタローの口から、微笑のような声が漏れた。
「何だヨ、そんなに俺は信用ねえか?」
屈んで、と目線を合わせるシンタロー。
首を横に振る
「違うの。よそ者だって言うなら私だって…」
確かに元は、この島の者だったやも知れない。
しかし、空白の6年間、どこにいたのか。その保障はどこにもない。
「─いや」
遮るように、シンタローが口を開いた。
断固とした口調だった。
「アイツは、俺が治してやるんだ」

こんな眼をした彼を、かつて見たことがあっただろうか。
は悟った。
これは、シンタローとパプワ─更に言えば、シンタロー自身の問題なのだと。
はおろか、誰も踏み込んで良い領域ではない。
「─……」
は、そっと首飾りを外した。
「シンタローさん」
そして、紐に付いた赤い珠ごと、シンタローに差し出した。
シンタローが首を傾げる。
「お守り」

ぱちくり、と。
シンタローは一回、瞬きをし、そして。
「馬ー鹿」
ぽん、との頭に手を置いた。
「俺は大丈夫だっつってんだろ?」
そう言って。満面の笑みで応えてやったというのに、少女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
参ったな、と後ろ頭を掻いて。
「大事なモノなんだから、ちゃんと持ってろ」
包み込むように、彼女の両手を己の手で握った。
ぎゅ、と。
シンタローの手の中で、がその細い両手を、更に握り締めた。
掌を通して、伝わる熱。
大切な宝物を、そっと仕舞うように。

「─シンタローさんは、」
が、顔を上げた。
「─強いんだよね?」


─お兄ちゃんは、一番強いんだよね!─


少女の、泣き笑いのような笑顔に。
懐かしい何かを重ねて。


「──オウ!」


いつものように、軽く片手を挙げて。
シンタローは、炎の崖へと歩いて行った。








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