「わぅ〜ん」
気づけば、チャッピーがの足元にいた。
「チャッピー」
「わう、わうわう〜ん」
「──…?」
何かを伝えようとしているのか。
しかし、チャッピーの言葉を解せない。
首を傾げてその頭を撫でると、チャッピーは目に涙を溜めて泣き始めてしまった。
「─チャッピー」
「ふむ。なるほどな」
びくり、と肩を揺らす。
こちらもいつの間に居たのか、がチャッピーの言葉に頷いている。
「さん、チャッピーの言葉が解るんですか…?」
「うむ。大まかには、だが」
言って、すっくとは立ち上がった。よりも頭一つ分以上の長身だ。
今現在この島に居るヒトの中では、一番の長身であろうことは間違いない。
「彼は、シンタローから伝言を預かったようだ」
「チャッピーが、シンタローさんから…?」
復唱するに頷いて、は再び口を開いた。
「─もしも、自分が帰ってこなかったら、そのときは……」
─ぱし。
言いさしたところで、の両手がの口元を塞いだ。
「─聞きません」
下を向いた彼女の声は、震えていた。
「シンタローさんは──戻ってくるから!」
そう、言って。
顔を上げた彼女の目尻に、うっすらと浮かぶものが、陽光を反射して光った。
ややあって。
静かに、がその手を離した。
「─それが」
が、落ち着いた声音で口を開いた。
「君にとっての真実ならば、そうなのだろう」
は、もう一度チャッピーを見た。
涙を溜めた目で、こちらを見上げている。
そっと、はチャッピーを抱き上げた。
「大丈夫よ、チャッピー。…だって─シンタローさんだもの」
語尾が滲まないようにするのが精一杯だった。
チャッピーの首元の石が、きらりと光った。
同時に、自分の首に提げた赤い珠も、陽光に煌いた。
─赤い光。
「────」
やがて。
が、チャッピーを足元へ下ろした。
一瞬だが、ははっと息を呑んだ。
彼女の瞳が、先程までとまるで違う、凛とした輝きを湛えていたからだ。
「さん。パプワくんとチャッピーを…お願いします!」
それだけ言うと。
は、パプワハウスを背にし、炎の崖とは逆方向、森の中へと駆け出していった。
『我等赤の一族は、長い長い間、この聖域を守ってきた』
─赤の一族。
『、お主は赤の一族の巫女たる存在』
─赤の巫女。
森の中に、丁度丸く開けた、陽の差す場所がある。
はそこまで、止まることなく走り続けた。
「─ハァ、ハァ…」
慣れない運動は肺に堪える。
けれど、今はそんなことを言っていられない。
─もしも自分が、この島の巫女だというなら。
土の上に、は両膝をついた。
陽に掲げるように、首飾りの赤い珠を両手で包み込む。
祈りの作法など知らない。
それでも。
─どうか。
(─お願い…!)
それは、炎の崖で、シンタローが二度目の眼魔砲を放ったのと、ほぼ同時刻のことだった。
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