「──…ん…──!」
はじめ、うっすらと瞼を開け始めたは、その視界に見覚えのある姿を見つけると、がばりと起き上がった。
さん…」
褐色、革ジャンの見知った男が、夕陽を背に彼女を覗き込んでいた。
「大事ないか」
「私は…─それより」
結論を急く少女に、は無表情のまま、頷いてみせた。
「シンタローが帰ってきた」



来たときと同じく、駆けて戻ると、家の前には煤に塗れたシンタローが立っていた。
「お…」
「シンタローさん!」
片手を挙げたその胸に飛び込む
「─…っとぉ。おいおい、大げさだぜ
困ったような満更でもないような曖昧な笑みで、彼女の肩をぽんぽんと叩くシンタロー。
僅か、華奢なその肩が震えているのに気づいて。
「──…」
ガンマ団ナンバーワンの男は一つ息を吐くと、そっと少女の肩を抱き、もう一方の手で髪を撫でた。
不慣れな手つきにもかかわらず、少女は少しずつ、安堵を取り戻していった。

やがて、が顔を上げた。
「パプワくんは…?」
シンタローが親指を立てる。
「今薬を飲ませたとこだ。じきに熱も下がって良くなるってよ」
ぱあ、との顔が明るくなった。
「お前も、面倒かけたな」
シンタローが、の背後へ声を掛けた。
否、とが短く応じた。


「…あれ」
と、視界の隅に見知った姿を見止め、が呟く。
「くり子ちゃん?」
呼ばれた少女は、少しだけバツの悪そうに、俯き加減に振り向いた。
「お久しぶりでございます、様」
「パプワくんに会いに来たの?」
当然のように問うた言葉に、しかし少女は静かに首を振った。
シンタローとが、パプワハウスへと戻っていく。
それを見届けると、くり子は再び口を開いた。
「─本当は、会いに来たんです。でも…このまま帰りますワ」
「えっ…どうして」
戸惑う
一年前の、彼女の来訪のときを思い出した。
くり子だけではない、パプワだって、心から会いたいと願う筈だ。
再びこの島に来たのだったら、会わない理由がどこにあろうか。
くり子は、悪戯が見つかったような苦笑を浮かべた。
傍でツトムが、その様子を見つめている。
「もうッ言わなくてもわかっててヨ、ツトムったら!」
くり子のパンチがツトムにヒットする。
くるりと、くり子がに向き直り、そして彼女の顔を見上げた。

「156センチ、か…」

「えっ?」
が問うたときには、くり子は既にツトムに跨っていた。
「ごきげんよう、様!」
ぽかんとするを置いて、くり子とツトムは急上昇していく。
「─…くり子ちゃん!またね!!」
地上から、が精一杯手を振ると。
小さなサンタクロースが、雲の上から手を振ってくれた…ような気がした。


こうして、今年のパプワ島のクリスマスは、少しの波乱と少しの切なさを孕んで、それでも大事な想い出の一頁として、、そして皆の心に残った。








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