シンタローを見送って、しばらく後。
は、そっとパプワハウスを後にした。
パプワとチャッピーは、まだ帰ってきていない。
しかし、彼らに見られる訳にはいかなかった。


森の中を、進んでいく。
目的地はない。
ただ少しでも遠く、もっと遠く。


「──…ハァ、ハァ」
少し早足だったからか、息が切れる。
初めて来る場所だった。
鬱蒼と茂る緑の中には、見たことのない植物も混じっていた。
「───」
何気なく、上を見上げた。
南国の島には不似合いな、プロペラの機械音が遠く響く。
ごう、という風と共に。
ヘリコプターと呼ばれた物体が、のはるか頭上を過ぎていった。
「……ンタローさん」
呟いた声は、プロペラと風の音に掻き消えた。
彼を乗せたモノが、島から遠ざかり、視認出来なくなるまで見送って。
「…シンタローさん…」
もう一度、ぽつりと呟いて、は樹の根元に座り込んだ。


ぽたり、と。

堪えていたものが、零れ落ちた。


「───…ッ…」
そのまま、顔を伏せて。

誰もいない森の中で、は、それでも声を殺して、泣いた。




「──?」
どれくらい経っただろう。
頭上から掛けられた声に、泣き疲れて眠り掛けていたは、はっと意識を取り戻した。
それは、ただ声を掛けられた、からではなく。

(──この、声は…)

がよく知っている声。
さっきまで聞いていた声。

もう、ここにはいない筈の声。


「──…」
ゆっくりと。
は、顔を上げた。
大切な宝物を、取り出すように。


黒髪の、良く知る顔の男が、そこに立っていた。


「─…シンタローさん…?」









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