「─ったく、落ち着いて食事もできねぇぜ!」
パプワの呼んだ大勢の客に悪態を吐きながら、シンタローがどっかと腰を下ろす。
伏し目がちの視線は、パプワに注がれている。
はその光景を見守りつつも、茶碗で口元を隠した。
見れば、パプワも同じ仕草をしていて、こんなときだというのに笑いがこみ上げた。


「ごちそうさま」


その言葉に、真っ先に反応したのはだった。
シンタローが、遅れて気づく。
パプワを追って家の外へ出るシンタロー。

が気づいたのは、当然といえば当然だった。
この島に漂着して、幾許かの時が経った。
それは、人によっては長くも短くもあったのだろう。
ただ、パプワやシンタロー、チャッピーやナマモノ達、そしてシンタローを追ってきたガンマ団の者達。
彼らの言動は、声から話し方の癖まで、きっちりと覚えていた。

それが、彼女にとっての全てだったから。



パプワとの話を終えたシンタローが、家の中へ戻ってきた。
の向かいに、どかりと胡坐をかく。
は、俯いている。
「─あー…、
「うん」
「洗い物、ありがとナ」
「ううん」
が、顔を上げた。
シンタローが目を見開き、そして─彼女の頭に、がしと手を置いた。
「……ったく、何て顔してんだヨ」
そのまま、彼女の黒髪を掻き混ぜる。
少し乱暴に、けれど優しく。
「───うん」
が、また下を向いた。
それはさながら、悪戯を隠す子供のようで。
「………あのさ」
思わず、シンタローは口を開いていた。
うん、と彼女が小さく頷く。

「───…また…」

言いかけて。

「………いや」


──また、そのうち。

─早く行った方がいいんじゃねえのか?



─逃げるのはもう、止めにします




いつか、彼女と交わした言葉を思い出して。


「─一生会えなくなる訳じゃねえって」
苦し紛れの言葉と共に、先程よりも柔らかく、彼女の髪を掻き混ぜる。

しばしの沈黙。
やがて。

「──…うん。」

黙っていた彼女がようやく上げたその顔は──笑っていた。



窓から差し込む光が、朝日の到来を告げた。

「んじゃ……行くわ」

いつものように、軽く片手を上げて、出て行こうとするシンタローを。

「──うん。それじゃ」


─サヨナラハイワナイカラ─


いつもの笑顔で、は見送った。






 

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