それは、遠い遠い、はるか昔の物語。
「!」
そう言って笑いかける男の笑顔を、彼女は、向日葵のようだと思った。
「ジャン」
彼女と同じ姿の“彼女”が、ジャンを振り返り鈴蘭のような微笑を零す。
「あっジャンだ!」
「ジャンも一緒に遊ぼうよー」
子供達が、無邪気に番人を取り囲む。
「おーし」
ジャンがにっかりと笑う。
「今日は何して遊ぶかな!」
その光景を見守る“彼女”に、子供達が気づき、手招きをする。
「おいでよ!」
「おいでよー」
「「」」
「──…ん…」
差し込む陽の光に目を覚ます。
柔らかい草を敷き詰めた寝床は、ふかふかと心地よいけれど、いつもの布団の感触とはやはり違う。
は、ぼんやりとしたまま半身を起こした。
「お早う、」
視界に入った男が、笑顔で声を掛ける。
それは、やっぱり、良く知った姿で、けれどやっぱり違う誰かで。
「──ジャン」
名前を呼ぶと、男は、嬉しそうに笑った。
「赤の秘石…?」
ざくざくと、森の中を歩きながら。
は、今聞いた言葉を鸚鵡返しに口にした。
ジャンが頷く。
「お前の記憶が戻ったんだ。報告に行かないとな」
─赤の秘石。
以前、ヨッパライダー、そしてマジックから聞いた話を、は思い出した。
の首飾りと似た形の石。
島の象徴たる存在。
一族が守るべきもの。
ふと、は空を見上げた。
太陽は真上に差しかかろうとしている。
は、前方を行くジャンを呼び止めた。
「──ジャン、わたし…」
「どうした、?」
ちらり、と昨日自分のやってきた方角を見る。
「一度、戻らないと…パプワくん達が」
彼らが一晩戻ってこなかったからと言って、まで家を出る理由にはならない。
パプワはああ見えても、まだ年端も行かぬ子供だ。
彼女にとっては大きなことがあったとはいえ、は、無断で家を空けたことを今更になって後悔していた。
パプワ達が戻っているかは定かではないが、それを確かめるためにも、帰らなければならない。
が困ったようにジャンを見上げると、ジャンはいや、と言った。
「パプワ様なら大丈夫だ」
「──でも」
「それに…」
食い下がるに、ジャンは微笑を向けた。
「お前の帰る場所はここだろ?」
その言葉に。
ふいに、今朝方の夢を思い出して──
「──…」
もう一度だけ、パプワハウスの方角を見やり。
「……うん」
ちくりと胸に刺す痛みよりも、懐かしい暖かさが今は、大きくて。
小さく、は頷いた。
→
MENU