「そ…総帥〜…ッ」
入り口から聞こえた、情けない声。一同はカレーを口に運ぶ手を止め、振り返った。
マジックの部下達が、ボロボロの格好で転がり込んできた。
「なんだお前達、そのザマは!」
叱咤するマジック。隊長格の男が、泣きそうな声で告げた。
「だ…駄目です。この島は化け物だらけです!」
「何を馬鹿な事を…」
言いながら、ドアへ歩み寄るマジック。

「───…ッ!!!」
外の様子を覗いたガンマ団総帥の口から、声にならない叫びが漏れた。
シミズ、ブースケ、カオルの三匹が、マジックらを見下ろしている。
「何イィーーーッ!」
断末魔の叫び声を上げ、一目散に逃げ出すマジックと部下。
その後を、三匹が鬼ごっこの要領で追い掛けて行く。
「うおぉ、ついてくるなぁ、ナマモノッツ」
渾身の叫びを上げながら逃げ惑う、男達。

「シンちゃん!また来るからねーーッ!」
一人快活なマジックの声が、ドップラー効果に乗って掻き消えて行く。
「二度と来んなッツ」
シンタローの返事は届いたのか。
マジックらの姿は、徐々に小さくなって消えて行った。


「あーあ!行っちゃった」
「行っちゃった…ねぇ」
のんびりと見送る、パプワと
「──ったく迷惑なヤローだぜ!…さてと、」
こちらものんびりと吐き捨て、シンタローが踵を返す。
「──ところで…どうすンだ?あのカレー」
鍋を見遣り、呆れたように呟く。

──がさり。

「行ったか」
シンタローの呟きに呼応するように、影が一つ落ちてきた。
「うぉッ!?居たのかよ、!」
さん!」
木から逆さにぶら下がった男が、小さく頷く。
浅黒の肌に革ジャンを纏った、鋭利な印象の男性。
つい最近島にやって来た新しい人間で、名をと言う。
シンタローの話によると、彼もガンマ団の者であるらしいが、刺客として送り込まれた訳ではないようだ。
しかし、目的は未だ黙して語らず。シンタローも若干警戒をしているのだが…

「─そうだ。良かったら、さんも一緒にどうですか?マジックさんのカレー」
「いや、お構いな…」
「わうー」
「頂こう」
断りかけておきながら、チャッピーの誘いにはあっさりと頷くこの男。その行動パターンから察するに、無類の胸キュンアニマル好きらしい。
シンタローが、やや警戒しながらも最終的には放置しているのはこのためだ。
─古人に曰く、動物好きに悪人はいない。

「はーいはいはい、皆さっさと家ン中入れー。カレーが冷めちまうからな」
「うむ!改めて昼ごはんだナ、チャッピー!」
「わうー!」
「…馳走になる」
さん!カレー沢山あるから、夕飯も食べてって下さいね」

和気藹々と、パプワハウスへ入っていく4人と一匹。


こうして。
世界一の暗殺集団の長でありシンタローの父である男は、大鍋一杯の甘口カレーを置いて、去って行った。









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