「シンタローさん!」
彼女─が声に応えると、茂みを分けて、見覚えのある黒髪の男が歩いてきた。
、無事だったか?」
「うん、あの人が助けてくれて…」
そこでの方を振り向く
同時に、シンタローの瞳がこちらに焦点を結んだ。
─正確には、の着用しているジャケットに。

「…特戦部隊か…ッ!」
を背にかばう格好で、ざり、と砂を踏み戦闘の構えを取るシンタロー。
その背後で、目を丸くする

無茶苦茶なオーダーだったとは言え、一応偵察を命じられた身として、この状況は好ましいものではない。

─致し方ないか。

は2秒で判断し、両手を挙げた。






「─つまり何だ?酔った獅子舞に無理矢理飛ばされて、この島に落ちた。と」
胡乱気な視線を寄越すシンタロー。
、シンタロー、の3人は、卓袱台を囲んでシンタローの淹れた茶を啜っていた。
「確かに海辺にはアンタの言ったとおり、ミサイルが墜落してたけどよ」
ここはパプワハウス。家主であるらしい三白眼の少年がそう言っていた。
闖入者である自分をあっさりと受け入れたのは、懐の広さゆえか、それとも。
パプワという少年と目を合わせた瞬間、只者ではない、との第六感が告げた。
そして、今目の前に胡坐をかくシンタロー。
ガンマ団総帥の息子であり、特戦部隊隊長の甥。
パプワやとは違い、さすがに警戒心を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「それを、信じろってのか?」

シンタローの言うことはもっともだ。
まるきりの嘘ではないとは言え、彼の立場上、このジャケットを着た自分の言を、頭から信じる方がおかしい。
既に、本部からの刺客も次々送り込まれているという。
因みに、パプワハウスに入るときに、玄関先で何か見覚えのあるものが視界に入った気がしたが、盛大なる気のせいだろう。

「君の反応は正しい」
一言だけ、は返した。
だが、だからといって、本来の目的を明かす訳にもいかない。
思案をポーカーフェイスの下に隠し、はもう一度、シンタローを伺い見た。
と、その時。

「くぅ〜ん」
いつの間にか、パプワの脇にいた犬─チャッピーと呼ばれていた─が、不安げな瞳でを見上げていた。
「おいチャッピー、不用意に近…」
近づくな、と言いさしたシンタローの言葉が止まった。
の手が、ごく自然な動作でチャッピーの毛並みを優しく撫でていた。
チャッピーは気持ち良さそうに身を委ねている。

無論、たったこれだけのことで判断することは出来ない。
だが。
「馳走になった」
茶を飲み終えたが立ち上がった。
「あっ…おい」
去ろうとする背中に声を掛ける。が首だけで振り返った。
「その…」
言いよどむシンタローの意図を汲んだかのように、が答えた。
「暫くはこの島に居させて貰う。どの道、このままでは帰れんからな」
─君にとっては好ましくないことだろうが、と付け加える。

「──…」
シンタローが、ぼりぼりと後ろ頭を掻いた。
「変わんねえよ。今更一人増えたところでな」
溜め息と共に吐き出した言葉。裏腹に、鋭い眼光はを捉えたままだ。
も正面からその瞳を見据えた。

「─…あの」
控えめに割り込んだ声。
シンタローの横で、を見上げている。
「これから、よろしくお願いしますね。さん」
微笑んだその表情は、には長らく縁遠かったものだ。
─この娘は、心から…
「──ああ」
は、右手を差し出した。
細い指が、その手に重なる。
「わうーん」
足元で、チャッピーが嬉しそうに尻尾を振った。
パプワが両手に扇子を広げた。

「今日からおまえも友達だ!」


「…ま、そういうこった」
諦めたように、シンタローが吐き出す。
こうして、パプワ島に新たな住人が加わった。


──Can you be my friend?








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