「あ、パプワくんとチャッピーだ」
「やーほー」
山の方から戻ってきたパプワとチャッピーを視線の先に見つけ、エグチとナカムラが手を振った。
「おお!エグチくんにナカムラくん」
「わうん」
パプワとチャッピーが、普段通りの調子でそれに応じる。
日は高く昇り、そろそろ昼時を示している。
あの後、午前中を通して、は二匹と森の中を鬼ごっこやらかくれんぼをして、早速ニート生活を満喫していた。
「お前もいたのか」
パプワが、を見上げて声をかける。
うむ、と頷くと、パプワは両手に日の丸扇子をばっと広げ、
「そろそろ昼食の時間だナ。皆で食べよう」
そう言って、二匹と一人をパプワハウスへと誘った。
「ただいまー……ん?」
「どうした?」
家の入り口で訝しげな声を上げたパプワの背後から、が中を覗き込む。
チャッピーが、くうん、と淋しげな声を上げた。
も一目で異変に気付いた。
パプワが、ぽつりと答えた。
「がいない」
夜まで待っても、は帰って来なかった。
仕方なく(と言っても、妙に楽しそうに鼻歌など歌っていた)パプワ、チャッピーにエグチとナカムラの分まで、代わりに夕飯を用意しただったが、エグチとナカムラが帰り、食器を片付けた辺りで、パプワがすっくと立ち上がった。
「探しに行くのか」
問うと、ああ、とパプワは頷いた。
「夜の女の一人歩きは危険だからナ」
わうん、とチャッピーが同意するように鳴く。
「俺も探そう」
蛇口を止めて手を拭きながら、は即座に協力を申し出た。
朝方、シンタローがこの家から出たとき。
あのときは確かに、彼女の気配はここにあった。
シンタローが去り、パプワとチャッピーも未だ帰らぬ家で一人、はここに居た筈だ。
居なくなったとすれば、がパプワハウスから目を離し、エグチ、ナカムラと遊戯に興じていたあの時間しかない。
昼間、彼女の不在を見止めたパプワは、直ぐに探すとは言わなかった。
彼女が一言もなしに出かけることは初めてだが、暗くなれば帰ってくるだろう、と。
も、その場はそれに頷いた。
家主もシンタローも居ないこの部屋で、彼女が何を想い、或いは思い立ったのか、正確な把握はの与り知るところではない。
─仮説は幾つか立てられはするものの、だ。
「いたか?」
とりあえず手分けして探そう、と言って数時間後。
夜が開けて、約束した通り一旦パプワハウスへと戻ってきたパプワが、同じく戻ってきていたに問うた。
が首を横に振る。
パプワの方は、その反応からして、聞くまでもなかった。
「───…」
が手を顎に当てて思案する。
パプワも、一見いつも通りだが、微かに眉根を寄せていた。
やがて。
「足跡を辿ってみよう。幸い、一昨日から雨は降っていない」
が、淡々とした口調で提案した。
うん、とパプワが短くそれに頷く。
心なし、その表情は心配の色をたたえていた。
ナマモノたちやシンタロー、パプワたちのものと入り乱れてはいたが、その中からの足跡を辿るのは、ブラジリアン忍術を極めたには難しいことではなかった。
慎重に彼女の歩いた、ところどころ駆けたと思われる跡を追っていくと、森の中深く、一本の木の根本でその痕跡は途切れていた。
「──…」
が、注意深くその木と根本を観察する。
「─この木は、何か特別な意味があるものなのか」
問えば、いいや。とパプワから否定が返ってきた。
「この辺りの他の木と同じだゾ」
ふむ、とが思案する。
と、チャッピーがの前に進み出た。
「くうん」
地面に鼻を近付け、しきりに匂いを嗅いでいるように見える。
やがて、顔を上げたチャッピーが、二人の方を向いて何事か訴えた。
「わうっ、ばうわう!」
「それは本当か、チャッピー?」
「わうッ!」
パプワの問いかけに、力強く頷くチャッピー。
「どうした?」
が身を屈める。
パプワが、彼の方を向いた。
「知らない『ヒト』の匂いがする、と言ってるゾ」
チャッピーが、彼女の香りと共に嗅ぎ分けたモノ。
それは、も、そしてパプワすら知らない、『誰か』の存在だった。
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