「さあ、今日は年に一度の花見じゃ!パーッといくぞ!」
お花見怪獣が高らかに声を上げる。
───が。

「──…」
「─………」

島中の者が集まっている筈の浜辺は、しんと静まり返り、空は青いというのにどんよりとした空気を纏っていた。
「久しぶりの登場なんだから明るくしてよッツ!!」
ヨッパライダーが滝のような涙を流して叫ぶ。
それを皮切りに、アラシヤマとイトウ、タンノがシンタローの不在を嘆き始める。
パプワは、チャッピーの毛並みを撫でながら、じっと黙っていた。

「───」
ス、と。
知らぬ間にヨッパライダーの脇に現れたが、手早く盛った肴を差し出した。
「おお、気が利くのう!」
とは初顔合わせである筈のヨッパライダーだが、その存在を気にする素振りもなく、ごく自然な動作で差し出されたつまみに手を伸ばす。


─ブラジリアン忍法が一、無面目。
いかなる状況であろうとも状況に溶け込み風景と同化し、決して自分の存在を他者に悟らせない。
忍たるもの、基礎の基礎として身につけている技である。


(─これが、島の守り神…)
は、追加の肴を手早く造りつつ、ヨッパライダーの様子を盗み見た。
その姿もさることながら、なるほど確かに、島のナマモノたちとは一線を画す威厳を醸し出している。




「ヨッパライダーなら、何か知ってるかも知れないな」
朝方、森の奥で。
思いついたようにそう言ったのは、パプワだった。
の痕跡を追って辿り着いた先で見つけた、シンタローともパプワとも異なる『ヒト』の存在。
その手がかりとなる者がいると言う。
「ヨッパライダー…?」
いかにも胡散臭い響きに、が思わず眉根を寄せる。
「パプワ島の守り神だ」
パプワが、いつもの自信に満ちた顔で人差し指を掲げた。
「丁度、今日はお花見の日だからナ。浜辺に行けば会えるゾ」




宴と酒をこよなく愛す守り神だと聞き、はそそくさと肴を用意して、パプワ達と共に浜辺へ向かったのだった。
(─そういえば)
暗いムードながらも肴に舌鼓を打って機嫌は悪くない様子のヨッパライダーを見て、は思い出した。
マジックがパプワ島に来訪した日の夜。
が、己と向き合うために会いに行く、と言って出かけた相手が、この守り神ではなかったか。
実際にその姿を見た訳ではないが、あの時彼女から聞いた話とこの守り神は一致している。
(なるほど)
高速で魚を捌きながら、は一人納得した。
の正体を知る聖獣。
永きに亘って島を見守り続けてきた彼ならば、パプワも知らない『ヒト』の存在を知っている可能性は高い。
(──さて)
追加の皿を差し出しつつ、は切り出すタイミングを伺った。
丁度、ヨッパライダーの視線がパプワに注がれたところだった。
パプワは、未だ黙したまま俯いている。
「おまえもあの男がいなくなって寂しいのかね、パプワ?」
ヨッパライダーが優しい声音で問う。
よく見れば、パプワの視線は、チャッピーの首元に注がれていた。
(─…秘石…?)
いつもチャッピーが身につけているそれがどうかしたのかと、がパプワの顔へと視線を移す。
「──…!」
思わず、は息を飲んだ。
パプワの瞳が、赤い光を帯びて光ったのだ。
(これは……秘石眼…!?)
色こそ違えど、自身の上司の持つ瞳の光に、それはよく似ていた。
酷似している、と言っても過言ではない。
固唾を飲んで見守っていると、やがてパプワがぽつりと、呟いた。

「ぼくと同じ奴がいる」








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