0.再来



 風の無い丘。
 夜よりも昏い闇が、漆黒の騎士を産み落とした。
 全身を隙間無く覆う鎧。無造作に提げた大剣。いずれも、艶一つ無い闇の色を帯びていた。


(──待っていたわ)


 喉声が囁き、麝香の香りが闇を満たした。
 背後から伸びた白い腕は、音も無く騎士の身体に絡みついた。


(今宵の収穫を、どれ程待ち望んだ事か。──貴方も、そうではなくて?)


 女の指が鎧の胸元をなぞった。
 騎士は応えない。だが、女もそれを意に介する様子は無かった。


(あの子の羽根の色は、きっと美しいわ)
 愉悦の響きを隠そうともしない囁き。
(存分に、手間を掛けたのだもの。きっと…いいえ、間違いなく…)
 女は堪えかねたように息を吐いた。麝香の香りが一際強くなった。



(さあ)
 腕が解かれた。





(貴方の羽根を、絶望で贖いなさいな)












MENU